ビジネスモデルキャンバス

【2/27セミナーレポート】たった1人の「困った」が大事業に発展する? 「困りごとから成功するビジネスアイディアを創出する!」

2019年2月27日(水)、東京システムハウス株式会社主催の起業家向けセミナー「【超入門】困りごとから成功するビジネスアイディアを創出する!」が千代田区丸の内のStartup Hub Tokyoで開催されました。大学生から起業を考えている方まで、年代・性別問わず参加したセミナーの様子をレポートします。

今セミナーは「困りごとが、事業の第一歩であるビジネスアイディアになりうる」ことをワークを交えながら解説・実践するものです。会の中盤でも例示されましたが、NetflixやAirbnbなどの現在注目を集めているビジネスモデルも、初めは創業者の「困り事」がビジネスアイディアになりました。創業者の体験がビッグビジネスにつながることは珍しくありません。

 

 

ビジネスフレームワークを無料で提供するBizMakeが主催

はじめに東京システムハウス株式会社の今井雄大氏が登壇し、誰でも簡単にビジネスフレームワークを使えるWebサービス「BizMake」について紹介しました。

BizMakeは「ビジネスモデルキャンバス」や「リーンキャンバス」「ジョブマップ」「MVPキャンバス」「バリュープロポジションキャンバス」などのフレームワークを無料で使えるサービスです。これからビジネスモデルを決める起業家にとってはもちろん、自社事業を改めて見つめ直したり、競合のビジネスを分析したりするのにも役立ちます。

 

 

講師は大手のコンサルティングも手がける白井和康氏

その後、講師の白井和康氏が登場しました。BizMakeの監修者でもある白井氏は、これまでに日立グループやトヨタ、三菱など、大手のコンサルティングを手掛けた実績があります。

白井氏ははじめに「無料でオフィスが使えたり少額で会社を作れたりと、起業することの門戸は広がっている」と前置きしたうえで「だからといって成功確率が上がったわけではない。今回のセミナーでは成功ではなく(事業計画を含めたビジネスモデルを)大きく外さないことを意識してほしい」と語りました。

 

 

まずは「顧客のニーズ」をキャッチすることが重要

イントロダクションでは「ドッグフード発明者の悲劇」という起業家の失敗例を紹介。

その開発者は半分のコストで2倍の量を作れるドッグフードを開発した。そのまま市場にリリースしたところ注文が殺到。銀行から融資をしてもらい工場を仕入れて大量に作ったが、1カ月後には注文がストップした。人は好んで買ったが、肝心の味が悪く犬が食べなかったのだ。結局のところ、開発者の手元には大量の借金と売れ残りのドッグフードだけが残った。

白井氏はこのエピソードを通して「新しい事業やビジネスを考えたら、必ずテストやアンケートをすることが重要だ」と説きました。

その後「顧客はソリューションに関心はない自分の課題に関心がある」「ある状況において何かをうまく成し遂げるために、私たちはプロダクトやサービスを使う」など、投資家のデイブ・マクルーアや「ジョブ理論」で有名なクレイトン・クリステンセンなどのセリフを引用しながら、ビジネスを進めるうえで、いかに顧客のニーズやウォンツを重視することが大切なのかを説きます。

「作れば売れる」というモノ先行型のビジネスモデルが次々に崩壊している現代では、顧客のニーズを知ることが何よりも大切です。市場に受け入れられなければビジネスにはなりません。だからこそ市場調査が肝心なのです、という白井氏のメッセージに、セミナー参加者も頷きながら聴き入っていました。

 

 

ビッグビジネスも最初は些細な困りごとから生まれた

セミナーはいよいよ「困りごとから成功するビジネスアイディアを創出する」というセミナーの本題に進出していきます。白井氏は『「自分の困りごとを原点にすること」と「同じような経験に遭遇した人のニーズを掴むこと」によって、ビジネスが成功する確率はぐんと高まる』として数社の例を挙げました。

例えばNetflixの創業者であるリード・ヘイスティングスは、ある日レンタルビデオを数週間も延滞してしまいました。そこで「延滞金がないレンタルビデオ屋があってもいいんじゃないか」と事業を思いついたのです。

また靴下のサブスクリプションサービスを手がけるBlackSocksの創業者・サミー・リエッティは靴下に穴が空いていることをクライアントに見られたことを原体験にして「忙しいビジネスマンや買うのを忘れた人に定期的に靴下を届けるのはどうか」と事業構想にたどり着きました。

その他、AirbnbSONYのウォークマンなどの事例を挙げながら、個人の困りごとが多くの人の共感を呼び、大事業に発展することを解説しました。

 

 

リーンスタートアップを成功させるためのフローとは

セミナーはワークに移ります。参加者は過去に経験した困りごとを書き出し、グループごとに原体験をまとめ、選りすぐりの3つを設定しました。ワークによって実際に「困りごと」をビジネスアイディアとしてビジネスモデルを作成するのが今セミナーのゴールです。

一度テーマを決めたところで、ワークは一旦休憩、白井氏による「リーンスタートアップ」についての解説に移りました。

起業のハードルが下がった現在、リーンスタートアップはよく耳にするようになった言葉です。リーンとは「無駄がない」、スタートアップとは「再現性と拡張性を持つビジネスモデルを探索する一時的な組織」を意味します。リーンスタートアップのモデルを実践する企業には、お金・人ともにリソースが避けません。今後、拡張性が期待できるビジネスモデルをどれだけ無駄なく作れるかが鍵となります。

そのために白井氏は、リーンスタートアップの企業が自身のビジネスをスタートするまでの流れを解説しました。

まず「解決すべき課題を持つ顧客はどれほど存在するか」という仮説を打ち立て、検証するためにMVP(必要最小限の機能を持つ製品)をリリースします。「顧客の課題を解決するものを作れたのか」を検証していくのです。

ここまでは製品とビジネスモデルが本当に正しいのかを学習するフェーズとなります。ポイントとしてはいきなり本番環境の商材をリリースしないことです。コストを格段に抑えたMVPをリリースして市場のリアクションを得ることで、節約しながら仮説の検証を進められます。

その結果、信頼に値する結果が得られたところで、資金を調達しながら「どのようにして事業を再現性・拡張性あるものにするのか」という成長フェーズに移行していきます。白井氏は「リーンスタートアップは無駄を極力抑えながら、仮説・検証をすることが大切だ」と説きました。これは冒頭にもあった「顧客のニーズを掴むこと」にもつながるでしょう。

 

 

リーンスタートアップを設定する「リーンキャンバス」

白井氏はリーンスタートアップのビジネスモデルをまとめるために役立つツールとして「リーンキャンバス」をレコメンドしました。リーンキャンバスはいわば”30分で作成できる事業計画書”です。「顧客セグメント(アーリーアダプターを含む)」や「顧客の課題」「独自の価値提案」などのフレームを埋めることで、スタートアップ企業のビジネスモデルが決まります。

しかし重要なのは「事業計画書」とは違う部分があることです。元来、事業計画書は数週間かけて完成されたプランを書きます。一方のリーンキャンバスは作成が完了してもテストや検証を繰り返しながらプランをブラッシュアップすることが必要です。あらゆる事業が日々、量産されるととともにビジネスモデルが多様化するにつれて、一度設定した事業モデルのままではビジネスを勝ち進めなくなりました。外部環境の変化も考えつつブラッシュアップすることで、長期的に成功できる盤石の事業が完成します。

また事業計画書は「自分が成功する理由を知っている」というマインドで作成されますが、リーンキャンバスは十分な検証を進めるので「顧客が成功要因を把握している」という考え方になります。これは「顧客ニーズ」をキャッチアップすることを確認することにもつながります。

 

 

困りごとから生まれた参加者による5つのビジネスモデル

最後のワークタイムでは、グループごとに決めた「困りごと」を起点としてリーンキャンバスの9項目を埋めました。ディスカッションの最中には笑い声も聞こえるなど、参加者リラックスした様子だったのが印象的です。5グループの完成したビジネスモデルをご紹介しましょう。

 

1.「NEVER LOST」

「海外で落し物をしてしまった」という困りごとから生まれたアプリのビジネスモデルです。まずは日本を訪れる外国人をターゲットに、入国の際の保険に組み込むことでマネタイズを図ります。拾得者にも価値が生じる「複数の顧客」がいるビジネスモデルです。

 

2.「ゆうごはんサイト」

「日常でちょっと外食したいときに良い店が見つからない」という困りごとから発生したビジネスモデルです。「食べログには比較的大人向けの飲み屋が多く掲載されている」と市場を分析したうえで子ども連れをターゲットにすることで差別化を図っています。

 

3.「Do It Every」

「引っ越しの際に家具を買い換えるのが大変だ」という困りごとから生まれたビジネスモデルです。Do It YourselfならぬDo It Everyという概念で、家具職人と買い替えに困る消費者とをマッチングするサービスになっています。ジャストサイズの家具が手に入るほか、値段を抑えられるのが提供価値です。

 

4.「ベロンベロンセンサー」

「酔っ払って周りに迷惑をかけてしまった」という困りごとからできたビジネスモデルです。「自分が今どれだけ酔っているか」を可視化できるセンサーを飲食店やコンビニで販売するという、かなり画期的で攻めたモデルができました。

 

5.「外国人お手軽お助けサービス」

「日本を訪れる外国人のちょっとした困りごとを解消する」ビジネスモデルです。引越しや飛行機の予約、役所の手続きなどで困っている外国人がSNSやスカイプなどで通訳に解決法を聞けます。「クラウドファンディング」や「サブスクリプリョン」などの流行のワードも利用しています。

 

 

たった3時間で困りごとからスタートアップモデルを構築

今セミナーでは、各グループがゼロベースから「困りごと」を起点にビジネスアイディアを創出し、リーンキャンバスを用いて簡単なビジネスモデルまでを構築しました。顧客や独自の価値などを含めたビジネスモデルをスピーディーに作成できるのがリーンキャンバスをはじめとするフレームワークのメリットでしょう。

白井氏は中盤で「個人の困りごとといっても、軽んじることなくまずはビジネスモデルを構築することが大切」と説きました。SONYのウォークマンも創業者の盛田氏が経営陣に提案した際は「売れるわけがない」と猛反対を受けたそうです。1人の困りごとがその他大勢の共感を呼ぶ可能性は大いにあります。多くの顧客のニーズをつかめれば、最終的にはビッグビジネスにも発展するのです。

2019年の3月19日には「【超入門】困りごとから成功するビジネスアイディアを創出する!」の第2回が神田小川町のTAM COWORKING TOKYOで開催されます。起業を考えている方や新規事業の担当者はもちろん、遊び感覚でフレームワークを使ってみたい方は参加してみてはいかがでしょうか。

 

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