
ミッション・ビジョン・バリューの策定方法【事例・フレームワーク】
新規事業の立ち上げ、そこには創業者や社内担当者の思いがあり,成し遂げたいことがあるでしょう。最終的な目標を達成するために、情熱を燃やしているに違いありません。その想いを無駄にしないためにも定めるべきなのが、企業やプロジェクトの存在価値や方向性です。そこで策定しなくてはいけないのが「ミッション」と「ビジョン」「バリュー」になります。
今回は創業を考えている方や、社内で新規事業を任された方に向けて、ミッション、ビジョンを構築する方法を解説します。意味の違いや、策定するコツ、企業の事例、役立つフレームワークなどをご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
目次
ミッション、ビジョン、バリューの違いとは
そもそも企業にとってミッションやビジョン、バリューとは何なのでしょうか。また作成することによって、どのような意味があるのでしょう。
1. ミッション
ミッションは「企業が存在する理由」「サービスやプロダクトを通して成し遂げる使命」を表した言葉です。社会にどのような変化をもたらしたいのか、どのような悩みを抱えた方に解決策を提示するのか、人のどのような願望を満たすのかなど創りあげたい世界について明文化した言葉になります。
2. ビジョン
ビジョンとは、いわば「ミッションを達成するために設定する行動指針・戦略」です。「どのような意識をもって、サービス、プロダクトを開発するのか」「市場においてどのような役割を担うのか」などを示しています。
3. バリュー
バリューとは「ミッションを達成するため(ビジョンを進めるため)の価値観」です。プロジェクトメンバーが少ないフェーズでは、優先度は高くありません。昔は、バリューは後回しで良いとよく解説されていました。しかし、個の時代、プロジェクトベースでビジネスが進むようになりつつある昨今、バリューこそメンバー集めのために必要な項目となってきています。
順番としては先にミッションを策定してから、ミッションを実現するためのビジョン、バリューを策定するのが一般的です。簡略化すると、ミッションは会社の「マインド」を、ビジョンは「行動・戦略」、バリューは「価値観」を表しています。はじめにプロジェクトの方向性や指針を定めたうえで、実現するための行動を具現化することで、会社全体での目標が定まるでしょう。
それぞれを策定することのメリット
ではなぜミッションやビジョン、バリューを策定することのメリットを簡単にまとめます。
1. 社内全体の動きが高速化する
ミッションやビジョン、バリューを明文化することで、企業としての方向性が定まります。すると社員やチームメンバーとしても成し遂げるべき方向性が見えるので、動きが速まるのです。
2. “何でも屋”にならずに済む
ミッションやビジョン、バリューによってやるべきことが定まりますし、アライアンスを組むべきパートナーも明確になります。自社の方向性に合わない事業に触手を伸ばすこと、また軸がぶれることを防げるのです。
3. 市場内でのセグメント化に効果的
軸を決めることで、他社との差別化にもつながります。サービスや競合が溢れかえっている現在、セグメンテーションは重要です。ミッション、ビジョン、バリューを外部の顧客やパートナーに向けて発表することで、競合にはないバリューをアピールできます。
4. 採用基準としても効果を発揮
特にミッションは会社のキャッチフレーズにもなる「根幹の言葉」です。つまり制度や文化はミッションから生まれます。社内の採用基準もまたミッションを起点に考えられることです。社員やチーム全体の人間性を統一できることは、会社にとって大きな力になるでしょう。逆にミッションなしに採用をすると、スキルやノウハウといった部分だけで判断することになるので、どうしても足並みがそろわなくなってしまいます。
5. 顧客に対してもブランディングにも
企業として成し遂げたいことを発信することで、顧客に自社の魅力を伝えられます。共感を呼ぶことでセールスやPRにもつながるのがメリットです。
それぞれを設定するときに意識すべきこと
ではここからが本題です。新規事業を進めるうえで、どうやってミッションやビジョン、バリューを作ればいいのでしょうか。意識すべきことやコツなどを解説していきましょう。
1. 顧客のニーズ、インサイトを分析する
はじめは「○○なサービスがあったらおもしろいよね」「プロダクトで○○に悩むエンドユーザーを救いたい」などの考えや発想が新規事業のスタート地点になります。しかし、そこには「やってみたい」というチャレンジ精神はあれど、成功するためのロジカルなデータはありません。
だからこそ、まずは進出しようとしている市場を観察して、顧客(候補)のニーズを分析しましょう。特に現在のビジネスでは「顧客ニーズ」や「消費者インサイト」が重視されています。ミッションやビジョン、バリューを策定する前段階として、ニーズの調査は必要不可欠です。
2. ピボットしつつも、初期衝動をゼロにはしない
顧客のニーズをリサーチしていると、最初の予想とはかけ離れた結果が出ることも往々にしてあります。その際にまず大切なのは「素直に結果を受け止めて柔軟にピボットすること」です。ニーズを出発点にサービスやプロダクトをつくるのは、事業を成功に導くための第一歩といっていいでしょう。
しかしピボットしたからといって初期衝動をゼロにしてしまうのはよくありません。感情的な部分がゼロになると、そもそもの生産性や意欲が下がってしまいます。「自分が成し遂げたいこと」と「顧客が求めていること」のバランスが取れるようなビジネスモデルに変更していきましょう。
3. 誰にでも分かる短いフレーズで表す
ミッションやビジョン、バリューはチームメンバーはもちろん、顧客・パートナー先にも向けた言葉であり、読んだ瞬間に理解できるものでなくてはいけません。だからこそ端的に分かりやすい言葉で表現する必要があります。事業を担っている身としては、つい長文を書きたくなってしまいますが、ぐっとこらえて一文にまとめましょう。
書きたい要素が多い場合、事業の方向性がまとまっていないことの証拠でもあります。きちんと整理してから自分のミッション、ビジョンを見つめ直すと”本当にやるべきこと”が見えてきます。
大企業のミッション、ビジョンの3つの事例
では大企業はどのようなミッション、ビジョンを策定しているのでしょうか。数社の事例をご紹介しましょう。
1. 株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
大型量販店・ドン・キホーテを運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、以下のようなミッション、ビジョンを定めています。
ミッション
「顧客最優先主義」
ビジョン
第一条 高い志とモラルに裏づけられた、無私で真正直な商売に徹する
第二条 いつの時代も、ワクワク・ドキドキする、驚安商品がある買い場を構築する
第三条 現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す
第四条 変化対応と創造的破壊を是とし、安定志向と予定調和を排する
第五条 果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない
第六条 浮利を追わず、中核となる得意事業をとことん突き詰める
https://ppi-hd.co.jp/corp/hd/philosophy.php
ドン・キホーテといえば安さと最先端の品ぞろえ。ビジョンに「驚安商品がある買い場」や「変化対応と創造的破壊」などの文言がある通り、常に顧客のために最新グッズを低価格で提供しようという姿勢が見えます。
2. 株式会社良品計画
無印良品を運営する株式会社良品計画は、以下のようなミッションとビジョンを策定しています。
ミッション
良品価値の探求 Quest Value
「良品」の新たな価値と魅力を生活者の視点で探求し、提供していく。
成長の良循環 Positive Spiral
「良品」の公正で透明な事業活動を通じ、グローバルな成長と発展に挑戦していく。
最良のパートナーシップ Best Partnership
仲間を尊重し、取引先との信頼を深め、「良品」の豊かな世界を拡げていく。
ビジョン
1.カスタマー・レスポンスの徹底
2.地球大の発想と行動
3.地域コミュニティーと共に栄える
4.誠実で、しかも正直であれ
5.全てにコミュニケーションを
http://ryohin-keikaku.jp/corporate/philosophy/
無印良品もドン・キホーテと同じく多種多様なジャンルの商品を取り扱っている量販店ですが、提供価値はまったく違います。「驚安」こそありませんが、無印良品のスタッフの方のホスピタリティは顧客にとっても安心感があるもの。カスタマー・レスポンスや、コミュニケーションなどのビジョンにその姿勢が現れています。また2019年6月現在、海外に517店舗を展開しており、グローバリズムにも力を入れているのが分かるでしょう。
3. 株式会社ローソン
コンビニ各社のなかでも、カウンターコーヒーを手渡しで提供するなどの取り組みが特徴的な株式会社ローソンは、どのようなミッションとビジョンを策定しているのでしょうか。
ミッション
私たちは”みんなと暮らすマチ”を幸せにします。
ビジョン
- お客さま、マチ、お店を起点に考えます。
- 基本を徹底し、革新に挑戦します。
- 仮説、実行、検証の質とスピードを高めます。
- 規律のもとで自律し、チームでやりぬきます。
- 自己の成長を求め、仲間の成長を支えます。
http://www.lawson.co.jp/company/corporate/data/idea/
ローソンのミッションやビジョンで特徴的なのは「マチ」という文言です。これは社会や地域への役割を果たすという姿勢の表れでしょう。リサイクルの徹底やCo2、レジ袋の削減などの環境問題に対する取り組み、また市販薬の提供などの地域に対する利便性の追求を見ても分かる通り、地域社会に対する前向きな姿勢が株式会社ローソンの特徴です。
ミッション、ビジョン、バリューの策定に役立つフレームワーク
では最後にミッションやビジョン、バリューの策定に役立つフレームワークを3つご紹介します。
1. ニーズの分析に役立つ「ジョブマップ」
先述した通り、ミッションやビジョン、バリューを策定する前に顧客のニーズを確かめることが事業成功への絶対条件です。その際に役立つフレームワークがジョブマップにもなります。マーケティングのメソッドとして有名なジョブ理論をもとにしたツールであり、顧客の願望や悩みを「ジョブ(仕事)」。ジョブを解決するために企業の商品を活用することを「ハイア(雇う)」とすることで、顧客の本質的なニーズを分析するためのフレームワークです。
2. ビジネスモデルキャンバス
構築したミッションやビジョン、バリューをビジネスモデルとして可視化するために役立つフレームワークがビジネスモデルキャンバスです。「顧客セグメント」や「提供価値」「コスト」「リソース」「チャネル」などの9つの要素から事業全体のビジネスモデルをまとめることができます。
またミッションやビジョンを策定する前の競合分析にも利用可能です。競合と思われるサービスやプロダクトのビジネスモデルを1枚のフレームワーク上でまとめられます。ビジネスを取り巻く9つの要素を可視化できるので、セグメンテーションすべき部分も見えてくるでしょう。
3. リーンキャンバス
スタートアップなど、事業の立ち上げに時間や費用を割けない方に向けておすすめしたいフレームワークがリーンキャンバスです。こちらもミッションやビジョン、バリューを策定した次の段階として使うと、ビジネスモデルを可視化できます。いわば「1つのフレームワーク上でまとめられる事業計画書」です。
「事業の幹」になるからこそ、策定、そして刷新を
ミッションやビジョン、バリューは基本的に企業や商材にとって根幹になる言葉です。だからこそしっかりと市場を調査したうえで決定しなければなりません。
しかしイノベーションが進む現代では、頻繁に外部の環境が変わりますので、停滞してはいけないのも確かです。もし、外部環境の変化によって、ビジネスもモデルを変更する場面が来たら、ミッション、ビジョン、バリューも一緒に変更しましょう。
今回はご紹介した3つのフレームワークはBizMakeからどなたでも無料で利用できます。新規事業をお考えの方はぜひご利用ください。

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