バリューチェーンとは? 分析のやり方・ニトリの事例・サプライチェーンとの違いなどを徹底解説

企業活動において利益を挙げるために、顧客に提供する「バリュー」が必要です。ニーズが多様化し、ビジネスの変化も激しい現代において、競合には真似できないバリューを設定することが重要になっています。

しかし、あらためて競合と比較した際の自社のバリューについて考えると、明確に設定できていないケースもあるでしょう。またどのようにして価値創出されているかを把握できていないかもしれません。そこで効果を発揮するフレームワークが「バリューチェーン」です。今回は「バリューチェーン」の考え方から、作り方、企業の事例、サプライチェーンとの違いなどについて紹介します。

 

 

なぜ今「バリュー」を考えるべきなのか

まずは「競合には真似できないバリューを定義すべき理由」について説明しましょう。

10年以上前のビジネスは今とは違う形態でした。テクノロジーが進歩しておらず、SNSなども未開発だった。箇条書きにすると、主に以下のような特徴がありました。

以前の市場の状態

  • 一部の大手企業がテクノロジーの進歩を続けている
  • 企業の立ち上げや新商品が少ない
  • 顧客は商品を選べず、大手企業のブランド力や価格帯などを材料に利用していた
  • SNSはなく顧客の伝達手段は口コミだけだったので、インパクトがなかった

しかし現在、テクノロジーが発達し、SNSが流行しています。以前の要素は以下のように変化したのです。

現在の市場の状態

  • テクノロジーが民主化され、中小企業でも新技術を使えるようになった
  • 起業が激しくなり、市場は競合であふれている
  • 同ジャンル内でさまざまな商品が生まれ、顧客はニーズに合わせて商材を選べる
  • SNSが普及し、商品のメリット・デメリットが顧客体験をもとに世界に広まるようになった

このようなビジネスにおいて、顧客はあらかじめ価値を知ったうえで商品の購入をするようになりました。情報収集をしてニーズと照らし合わせることに時間を割くようになったのです。すると何の特徴もない製品は求められません。

またテクノロジーが進化したのでさまざまな企業が市場に入り込んでくるようになりました。するとポジショニングによる差別化が重要です。競合と比較した際に模倣されないバリューを定める必要が生まれています。

このように提供価値は現在のビジネスを進めるうえで重要性を増しているのです。

価値を生み出すうえで、とても有用なのが「バリューチェーン」になります。企業活動全体を俯瞰して見たうえで、あらためてどの活動にどんなバリューがあるのかを見直すためのツールです。ではバリューチェーンについての概要からご紹介しましょう。

 

 

バリューチェーンとは

バリューチェーンを直訳すると「価値連鎖」となります。企業の生産活動は1つの側面だけでなく、さまざまなアクティビティが連鎖しているものです。企業活動にはさまざまな活動があります。そのなかで「どのタイミングでどんなバリューが生まれているのか」を考えるフレームワークがバリューチェーンです。提唱したのはハーバードビジネススクール教授のマイケル・ポーター氏です。1985年に「競争戦略論」という書籍のなかで触れました。

 

 

バリューチェーンは主活動と支援活動に分かれる

前提として知っておきたいのは「バリューチェーンは単純にひとくくりにするものではない」ことです。マイケル・ポーターは活動の性格を大きく2種類に分けています。

 

主活動

生産から販売までのフローのなかで直接的に関わる活動を指します。主な主活動の例を列挙してみましょう。

主活動の例

  • 購買物流
  • 製造
  • 出荷物流
  • 商品企画・マーケティング
  • サービス

 

支援活動

一方、支援活動とは主活動ができるように、またはよりスムーズに進めるための活動のことです。

支援活動の例

  • 資金調達
  • 技術開発
  • 人材育成
  • インフラの整備
  • 全般管理

これらの要素はダイレクトに生産から販売までを担うものではありません。主活動をより円滑に進めるためにする企業の活動です。主活動と支援活動をあらかじめ明確に分けておくと、実際の計画を立てやすくなります。

 

 

バリューチェーンの基本的な型

バリューチェーンには基本的な型があります。

 

主活動

 

支援活動

基本的にはこの流れをもとに「どこでどのような価値が生まれるのか」を考えるのがやり方です。ただし、すべての企業が上記の流れを踏んで商品を開発しているわけではありません。実際にフレームワークを考える際には上記の流れをもとに、自社の活動を当てはめながら組み立てましょう。

 

 

主活動と支援活動の例

ではインテリア販売の巨人・ニトリを例に主活動と支援活動をご紹介しましょう。例えば店舗でイスを売るためには以下のような活動が必要になります。先述した基本的な型はありますが、もちろん実際にフレームワークを組み立てる際には自社のビジネスをもとに考えましょう。

ニトリの外部環境の分析を詳しくご覧になりたい方は以下の記事をご覧ください。

 

ニトリの主な主活動

  • 海外からの商品材料の仕入れ
  • 生産(家具の組み立て)
  • 流通(各店舗への運送)
  • デザイン
  • 商品企画・マーケティング
  • 店舗での陳列
  • 販売員の接客
  • レジでの購入・梱包
  • 購買客の自宅への配送

 

ニトリの支援活動

  • 資金調達
  • 人材育成
  • インフラの整備
  • 機械生産などの技術開発

この活動を通して、企業としての売り上げが立つことになります。

こうしてマーケティングや生産、販売までのプロセスをいったん分解して、1つひとつ分析しながら「どの活動にどんなバリューがあるのか」「競合の活動にはどんなバリューがあるのか」を分析し、競合他社が真似できない価値を作り出すことをバリューチェーン分析といいます。言葉の通り、1つひとつのプロセスに顧客への価値を持たせることで「価値(バリュー)が連鎖(チェーン)していく」という考え方です。

ニトリの場合であれば、ノックダウン生産方式によってコスト削減に成功しているのがよくわかります。ここまで大規模なインフラの整備は他社には真似できません。大手ならではの経済力を生かした模倣可能性の低いバリューが構築されています。

 

 

ビジネスモデルキャンバスで置き換えるとどうなるか

バリューチェーンをより深く理解するために、ビジネスモデルのどの部分に関わるかをご紹介しましょう。

上記の図で説明すると、バリューチェーンは内部リソース、主要活動、パートナー、コスト、提供価値の部分を補完する役割があります。主要活動にどれだけのリソースを割き、どの程度コストを削減するか。その結果、どのようにして価値が生まれるのかについて明確にします。

 

 

バリューチェーンとサプライチェーンとの違い

ここまでを読んで「サプライチェーンと何が違うの?」と感じた方もいらっしゃるでしょう。両者には明確な違いがあります。サプライチェーンはその名の通り供給するまでの流れを指す言葉です。

 

サプライ(供給)とバリュー(価値)の違い

サプライチェーンはその名の通り「モノの供給」を考えるものです。商品が生産されて顧客の手に届くためにはさまざまな「供給」が存在します。ニトリの例でいうと「木製家具の材料生産者→加工業者」「加工業者→輸出業者」「輸出業者→日本の加工職人」「加工職人→物流業者」と1つのイスを作るまでにさまざまな供給がなされるわけです。

一方、バリューチェーンは供給だけに着目するのではなく、マーケティングやサービスまでを含めた活動に着目し、工程ごとに価値を付加させていきます。

 

 

バリューチェーン分析をするメリット

ではバリューチェーンの概念的な情報が分かったところで具体的なメリットについてご紹介しましょう。

 

競合のバリューを分析できる

自社だけでなく競合のビジネスでの提供価値も判別できます。「競合の強みはどこでどう生まれているのか」「競合が真似できないバリューは何か」などを俯瞰的に分析できるのは大きな魅力です。

 

自社の強みをロジカルに整理できる

商品を顧客に届けるまでの活動を区切って考えることによって「どこに力を注ぐべきなのか」がよく分かります。自社の生産やマーケティングから販売までのフローのなかで強み・弱みが明確になるのは大きなメリットです。

また自社の強みを論理的に考えたいときには3C分析もおすすめです。自社と顧客、市場の3つを並列で考えることで、顧客のニーズを満たしつつ、競合との差別化を考えられます。

3C分析についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

さらに強みと弱みを把握し、適切なアクションをするためにSWOT分析も効果的です。強み、弱み、機会、脅威の4要素を、1つのフレームワーク上で並列してアウトプットできます。

SWOT分析について、もっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

 

経営リソースを適切に分配できる

バリューチェーンで自社の強みと弱みを把握できることで、適切にリソースの分配ができるのも大きな魅力です。それまでは”なんとなく”で決めていたリソースの配分をロジカルに決められます。強みにはリソースを割き、弱みのコストは最小化するといった論理的な企業活動を進められるのです。

 

 

6ステップでバリューチェーン分析をする

ではバリューチェーンの概念的な部分を整理したところで、実際にフレームワークを組み立ててみましょう。

 

STEP1. 企業活動を流れでまとめる

まずは自社のバリューチェーンを把握しておきましょう。具体的に流れに沿って、企業活動をリストアップしておきます。プロジェクト設計、生産製造、仕入れ、物流、プロモーション、キャンペーン、販売、技術開発、採用などの活動を1つずつ書き出しましょう。

 

STEP2. 活動を主活動と支援活動に分けて図式化する

先述した考え方で主活動と支援活動に分けて図にまとめます。主活動はダイレクトに購買活動につながるものです。支援活動はその主活動をサポートする企業活動です。

 

STEP3. 各レイヤーにかかっているコストを洗い出す

そのうえで各レイヤーにかけているコストをいったん洗い出します。フローで考えるのではなくスポットで考えるべきなので、1つずつのレイヤーを見つめ直したうえで欠けている人的リソースなどを書き出しましょう。ここから先のステップで気を付けたいのは、1人の担当者に任せないことです。主観的な情報と違う可能性もありますので、必ず各部署の担当者と協力しましょう。

 

STEP4. 各レイヤーの強みを書き出す

ここも各レイヤーごとの強みをアウトプットしていきましょう。全体ではなくスポットごとに書き出すことが重要です。例えば製造であれば「原価の金額」「発注から完了までのスピード」などについて列挙していきます。

この場合の「強み」とは競争優位性です。なので優位性をまとめるためのフレームワーク「VRIO分析」を用いましょう。VRIO分析について簡単にご紹介します。

 

VRIO分析とは

VRIO分析とは1990年代に生まれたフレームワークです。Value(価値)、Rareness(希少性) 、Imitability(模倣可能性)、Organization(組織)の頭文字で構成されており、この4要素を客観的に評価していきます。YES or NO方式で評価する手法もありますが、より具体的な数値を出すため5点満点で記載することがおすすめです。以下の記事では、VRIO分析に絞って詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

Value:価値

ここでは経営資源に着目しましょう。人やお金、生産体制、固有のテクノロジー、アイディア、スピードなどが大きなポイントになります。「ビジネスチャンスをものにできるか」「ピンチを乗り切れるか」という着眼点で考えると分かりやすいでしょう。

 

Rareness:希少性

「上記の価値をコントロールしている企業は少数か」について考えます。競合と比較して、現在進めている企業活動が少ないほど価値が高くなります。

 

Imitability:模倣可能性

「その価値は他社に真似されやすいか」について考えます。「時間」「費用」「法律」「複雑さ」「因果関係の明瞭さ」の5点から考えると分かりやすくなります。

 

Organization:組織

価値を創出するための組織的な手続きや方針は整備されているか、について考えます。競合についてもできるだけ情報を集めながら分析していきましょう。

 

STEP5. 他社には真似できない価値創出を考える

自社と競合の両方についてSTEP4までを終えたら、それぞれの強みと弱みが分かってくるはずです。すると「競合ができない部分にお金をかけるべきか」「自社の弱みのなかですぐ補える部分を補完するべきか」などの要件が定まってくるでしょう。

最後に比較をしながら、ビジネスモデルの「リソース」「主要活動」「パートナー」「コスト」「提供価値」の部分を決めてください。言わずもがなですが、「顧客」(誰のどんな課題を解決するのか?)が前提でのバリューチェーンになります。

 

 

バリューチェーンで競合に真似できないバリューを作る

バリューチェーン分析をすることで「自社のバリューを把握できる」「競合のバリューがいつ・どうやって生まれているのかが分かる」「模倣されないバリューを組み立てるためのポジショニング戦略を練れる」などの施策が実現し、企業としての無駄を省けるのが大きなメリットです。

BizMakeではバリューチェーンを無料でどなたでも使えますので、ぜひお気軽にご利用ください。

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