
内閣府が推奨する「経営デザインシート」で”レガシー”の意識は変わるか?
平成30年5月、内閣府の知的財産戦推進事務局が「経営デザインシート」というフレームワークをリリースしました。「モノ」から「コト」にトレンドが変わった、現代のビジネスを生き抜くために活用されるツールになっています。
今のビジネスでは、顧客のニーズを優先したうえでしっかりと戦略を考えなくてはいけません。「作れば売れる」ではなく、選ばれるモノでなくては売れない時代です。ITベンチャーやスタートアップをはじめ、ビジネスへの感度が鋭い方にとってはもはや常識的な考えでしょう。
今回、注目していただきたいのは「国のプロジェクト」として進んでいるということです。内閣府主導で「コト優先」のフレームワークを開発することで、いわゆる「レガシー」といわれる老舗企業も、漫然と生産を続けるだけではいけないことに気付くでしょう。
そこで今回は3回に分けて「なぜ国が経営デザインシートを推奨しているのか」「経営デザインシートの書き方」「より具体的にフレームワークを作成する方法」をご紹介します。
20世紀型から21世紀型への需要と供給の変化
では、はじめに「経営デザインシート」が生まれた背景からご紹介しましょう。
知的財産戦略推進事務局は、世の中が有形資産から無形資産に転換したことに注目しています。1985年は全資産のうちのたった32%だった無形資産が、30年後の2015年には87%にまで増加しているのです。
この背景にあるのが需要と供給の逆転です。20世紀の終わりまでは、企業の供給より消費者や顧客の需要のほうが多くありました。
その結果「作れば売れる」というのが共通認識になったので、企業はとにかく新製品の開発・生産に明け暮れていたのです。しかし1989年の冷戦終了により、軍事技術や予算が民間に開放され、東欧諸国や中国がマーケットに参入するようになりました。だんだんと供給が需要を上回るようになったのです。
また拍車を掛けるようにテクノロジーが進化し、世界中で製品やサービスのボーダーが無くなりました。日本にいても外国製のモノを変えますし、逆もしかりです。
「顧客のニーズ」が重視されると共に増えた無形資産
「作れば売れる時代」が終わるとともに「選ばれたら売れる時代」がやってきました。
そこで企業が重視したのが「顧客のニーズ」です。ただ製品を作っても売れないことに気付いた各企業はマーケットやトレンドの変化を調査することに力を入れ始めました。
必然的に価値が高まったのが「データ」や「仕組み」です。顧客のニーズやウォンツを鮮明にする仕組みや、ターゲットの需要が分かるデータなどが分かると、作るべき商材のカタチが見えてくる。モノを売るために生産するのではなく、戦略を練ることが重要だと気付いたからこそ無形資産が増えています。
これまでのやり方で変化が激しいビジネスの世界を生き抜くことはできません。変化に対応できる企業だけが生き残れる時代になったのです。今回、知的財産戦略推進事務局が「経営デザインシート」をリリースした背景には、各企業がビジネスモデルの転換を迫られている現状があります。
経営デザインシートを構成する3つの要素とは
知的財産戦略推進事務局は「経営デザインシート」について次のように記述しています。
環境変化に耐え抜き持続的成長をするために、自社や事業の存在意義を意識した上で、「これまで」を把握し、長期的な視点で「これから」の在りたい姿を構想する。それに向けて今から何をすべきか戦略を策定する。
例)内閣府 知的財産戦略推進事務局.「経営デザインシート」― 経営をデザインする ―, 2p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou01.pdf
また「企業」については次のように記載しています。
企業とは、環境を理解し、資源を確保し、それらを組み合わせ、ユーザの求める価値を創出し、提供する一連の仕組み(価値創造のメカニズム)である。
例)内閣府 知的財産戦略推進事務局.「経営デザインシート」― 経営をデザインする ―, 3p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou01.pdf
めまぐるしく変動する現代のビジネスにおいて常に観察しておくべきなのが外部環境です。トレンドの変化や競合他社の動向などの要素は、自社の方向性を決める大きな要因になります。そのうえで自社の強みに重きを置きながらも、顧客をファーストに考えてビジネスモデルを練る必要が有るでしょう。そのために有形、無形関係なく資源が必要です。それによって、価値が発生します。
経営デザインシートは「外部環境の変化に対する備え」と「顧客のニーズ」「新しいビジネスモデル」の3つに重きを置いたフレームワークといえるでしょう。
今回は経営デザインシートが生まれた背景とその概要についてご紹介しました。次回は「経営デザインシートの使い方」についてご紹介します。経営者や事業責任者の方はもちろん、ビジネスを推進しているその他の方もぜひご覧ください。
