
ビジネスにおけるデザインとは?意味や定義、重要性をご紹介
突然ですが「デザイン」とは、いったい何なのでしょう。
昨今のビジネスではやたらと「デザイン」というワードが飛び交っています。UXデザイン、デザインシンキング、デザインエンジニアリング、経営デザイン、~をデザインするなど、あらゆる言葉に「デザイン」が付随していますが、正確に把握できているでしょうか。
今回はビジネスにおけるデザインの意味や定義についてご紹介します。また「なぜ現在、ビジネスにデザインが求められているのか」についても、ビジネスの歴史をたどりながら解説しましょう。
目次
目的達成のために必要な要素を組み立てる
そもそも「デザイン」とは、どういう意味なのでしょうか。語源は「designare」というラテン語になっています。「designare」は「計画をカタチにする」という意味です。この言葉を解説するうえで、一世を風靡した工業デザイナーであるチャールズ&レイ・イームズの言葉を引用します。
「(デザインの定義とは)ある目的を達成するために、必要な要素を組み立てること」。
まさにこの言葉の通り、デザインは「目的を定め、達成するために考えや方法を組み合わせること」を指します。よく誤解されますが、決して意匠性だけを表す言葉ではありません。どのような目的を定めるのか、達成するためにはどんな技術が必要で、どのような見せ方をするのか、というビジネスの一連の流れが「デザイン」です。
デザインの対義語である「アート」とは
ビジネスにおける「デザイン」の対極にある言葉として「アート」がよく挙がります。デザインは先述したような「目的」を達するために使われる言葉です。その前提として「ユーザー(顧客)のジョブを解決する」というマインドがあります。ジョブとは一言でいうと「ある状況下において叶えたい願望」や「避けたい不満」「しなければいけない用事・仕事」を指す言葉です。
デザインとは「顧客のジョブを満たす」を考えることが前提にあります。つまり視点は常に顧客に無ければいけません。
一方の「アート」とは「自分自身が表現したいこと」「作りたいもの」「実現したいこと」を前提に考えることです。「アート思考」とは自分の内なる声に耳を傾けながら戦略を考えることになります。基本的にはビジネスを進めるうえで「アート思考」は向いていません。いくら自社や担当者の表現欲求が強くても顧客に利用されなければ、マネタイズも発生しませんし、何より誰も幸せにできません。なので顧客を主とする「デザイン思考」を主にしましょう。
デザインを「機能」「技術」「意匠性」に分けてみる
デザインはかなり広義の言葉ということが分かりました。しかし改めて定義づけることで、より複雑になったような気もします。
そこで「デザイン」を「機能」と「技術」「意匠性」の3段階に細分化してみましょう。するとなんとなく意味が掴めてくると思います。よりリアルに説明するために今回は「山登り用のタンブラーを開発、販売する」という状況を想定します。
1.「機能」を決める
まずは機能を決める段階です。「冷めにくい」や「蓋の気密性が高くこぼれにくい」などの機能を搭載します。ここでのデザインは「会社のグランドデザイン」や「デザインシンキング」「UXデザイン」などで使われる意味でのデザインです。
2.「技術」でつくる
決まった機能にしたがって、開発していく段階を指します。「断熱性が高い金属を使う」「蓋が閉まった際に音が鳴るように設計する」など、一見エンジニアの仕事と思われそうな分野ですが、この作業もデザインの一貫です。現在、アメリカではエンジニアとデザイナーの両方を手がける、いわゆるスーパーマン人材が増加しており、もともと親和性が高いのです。「UIデザイン」や「デザイン・エンジニアリング」などの“デザイン”はこの領域を指します。
3.「意匠」で魅せる
最後にタンブラーの意匠性を考えていきます。「カラーリングはどうするか」「形状はどのように魅せるか」などを決めていきます。一般的な皆さんのイメージに最も近い「デザイン」です。「エディトリアルデザイン」や「ファッションデザイン」などで使われる“デザイン”の意味を表します。
なぜデザインに「意匠性」というイメージがついたのか
「デザイン」は「ある目的を達成するために思考や方法を組み合わせること」ですから、見た目をだけを意味する言葉ではありません。しかし一般的に「デザイン=意匠」というイメージは広く浸透しています。なぜこうしたイメージが定着したのでしょうか。
その理由は主に2つあります。1つが「ユーザビリティ」です。1950年代になってテクノロジーが進化し、プロダクトにはあらゆる機能が付属するようになりました。その分、製品自体の見た目も複雑になっていき、ユーザーは機能の利便性を感じる一方で、直感的じゃないプロダクトに苛立ちを感じたのです。
そんななか「ユーザビリティ(使いやすさ)」を意識した意匠性が重要視されるようになりました。今でもプロダクツ・デザインではユーザーが直感的に使えるような工夫がなされていますよね。ペットボトルは手にする部分がくびれています。またサインペンのキャップは使用中にお尻にもフィットするようになっています。
プロダクトが大量生産されるなかで、ユーザビリティが求められるようになった結果、一連のデザインのなかでも特に見た目に重点が置かれるようになったのです。
デザインによってオリジナリティを出していた時代
「デザイン=見た目」のイメージを高めたもう1つの理由が「競合との差別化」です。各社がユーザビリティを意識しながら、最も使いやすい形をテンプレート化して大量生産するなか、デザインは画一的になっていきました。
そんななか、次第に「オリジナリティを発揮したい」と顧客ニーズが変化していきます。また企業も他社との差別化を図る重要性を気にし始めました。そこで意匠性に注目が集まったのです。企業や商材のブランドカラーができ、独自のフォルムで自社製品の特徴を打ち出しました。
しかし意匠性でオリジナリティを打ち出す施策は、早々に廃れました。技術革新により誰でも高いレベルの製品やサービスをつくれるようになったので、せっかく独自性を打ち出してもすぐに他の会社にコピーされてしまったのです。そこからはコモディティ化が進み、価格競争に陥るのが関の山でした。製品の価値を意匠性で高めることで、結局ハイスピードでの競争が生まれ、画期的なデザインがすぐに廃れるようになってしまったのです。
なぜ現在、デザインシンキングが重要なのか
そんな現状に一石を投じたのはiPhoneです。初期のiPhoneはカラーバリエーションもなく、とてつもなくシンプルなものでした。それは意匠性での競争からの脱却であり、かつてのユーザビリティ重視型への回帰でもあったのです。
それから現代にかけて、デジタル分野の成長に拍車がかかり、プロダクトはスマホの画面内に入るようになりました。データを取得しながら(冒頭の)「機能」と「技術」「意匠」を含めた“最適なデザイン”を、ロジカルに決定していくようになったのです。ロジカルシンキングという言葉がビジネス記事に溢れ、誰もがデータによって理論武装をしながら、ビジネスの成功確率を高めることに注力し始めました。デザインもAppleにならうように、ユーザーのニーズを重視して作られるようになりました。
その結果、現在、面白いことに「プロダクトやサービスの画一化」が起きたのです。これは1950年代に発生した問題とよく似ています。ロジカルに数字だけを追いかけると、いずれ各社が同じような見せ方をするようになるのです。すると商材は価格競争を強いられてしまいます。コモディティ化が避けられなくなり、各商材は利益率を下げることでしか優位性をアピールできなくなりました。
だからこそ現在のビジネスでは「デザイン」が求められています。ただし50年前のように意匠性だけのデザインではありません。デザインシンキングとは、いわば数字だけでは説明できない、ユーザーのエモーショナルな部分に注目した言葉です。
「ユーザーが何をしてほしいのか」「ユーザーが何をされたらつらいのか」という面を分析するために使えるフレームワークが先述した「ジョブ理論」です。「ある状況下においてユーザーが求めていること」を「ジョブ」、ジョブを解決するために企業の商材を使うことを「ハイア」として「なぜ人はサービスやプロダクトを使うのか」を分析する考え方です。ジョブには「機能的」「感情的」「社会的」という3種類があります。
「どんな機能があったら便利なのか」だけでなく「機能を使ったうえでどんな感情になりたいのか」「周りからどう思われたいのか」といったエモーショナルな部分までの仮説を立てられるので、デザイン思考との相性が良いフレームワークです。
ジョブ理論について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
機能や技術に関しても、論理にばかりこだわるのではなく、ユーザーの心に直接訴えかけるような「デザイン思考」が求められています。ディレクターやマーケター、エンジニア、そしてデザイナーなどが一体となってサービスやプロダクトをつくることで、優れたデザインができあがるのです。その際にロジカルとデザインの両方の思考をバランスよく維持することが大切になります。
ビジネスにおけるデザインは「意匠性」だけではない
今回はビジネスにおける「デザイン」の定義や意味を解説しました。またなぜ現在、デザインが重視されているのかについてご紹介しました。昨今、やたらと飛び交う「デザイン」ですが、決して意匠性だけを示した言葉ではありません。しっかりと把握したうえで、ロジカルシンキングだけではなく、デザイン思考も大切にしながらビジネスを勝ち抜いていきましょう。
