ジョブ理論で読み解く「イノベーションの3つの罠」とは

イノベーティブなビジネスモデルを軸に、うまくスタートダッシュを切った企業が、いつの間にか勢いを失い、破産してしまう。こうした事例はよくあります。ほとんどの理由が「イノベーションに潜む罠に引っかかっているからだ」といっていいでしょう。

「罠」とは具体的にどういったものを指すのでしょうか。
今回は「ジョブ理論」の視点から3つのイノベーションのトラップをご紹介いたします。

 

 

能動的なデータよりも受動的データを重視すべき

顧客が、企業の商材を用いて自身の課題を解決したり、要望を満たしたりすることを「ジョブ」「ハイア」で説明するのが「ジョブ理論」です。あくまで顧客のニーズ(ジョブ)にフォーカスすることで、データや属性などの表面的な数値目標に縛られず、本質的なビジネスを可能にします。詳しくはこちらの記事からご覧ください。

ジョブ理論を提唱するクレイトン・クリステンセンは「イノベーションのスタートは往々にして受動的なデータだが、マーケットにリリースしてからは能動的なデータを意識してしまう傾向にある」といいます。この「能動的データを意識してしまうこと」が1つ目の罠です。

イノベーションビジネスのスタートフェーズでは、創業者自身が顧客の立場になって、不自由なコトやモノを探すパターンがあります。たとえば、動画配信サービスのNetflix。もともとは創業者が「こんな機能があれば便利だな」と郵送でDVDをレンタルできるシステムを構築しました。“思いつき”は明確な数字がなく目立ちません。推進者がおらず、数値目標もないことから、これを「受動的データ」といいます。

イノベーションは受動的データを満たすことが出発地点です。しかしローンチして顧客からのリアクションを得るうちに数値的なデータが集まってきます。ターゲットを明確化したり、利益目標を定めたりと、目に見えやすい「能動的データ」が社内をリードするようになるのです。いつしかイノベーションは崩壊します。「競合よりも安く」「もっとエリアを広く」と他社の後追いになってしまう。これでは長い目で見たときに生き残るのは難しくなるでしょう。

 

 

「表面的な成長」に惑わされない

革新的なビジネスモデルで商材をリリースすると、あらゆる顧客が利用してくれるでしょう。会社の規模も拡大していきます。成長するにつれて創業者には欲が出てくる。すると大規模な投資をして既存顧客との関係を深く結びつけるパターンが頻繁に見られるようになります。

新規顧客を得るのに比べて、既存の顧客を囲うのはコストパフォーマンスに優れています。その結果、リソースが増えて、市場にある他社製品を買収、拡大しながら成長を続けていく。しかしこれは2つ目の罠である「表面的な成長」なのです。

あらゆる事業を展開することでビジネスの軸がぶれてしまいます。解決すべき顧客のジョブが無駄に増加し、あらたなサービスやプロダクトをつくる。するとはじめのころに商材を雇っていた(ハイアしていた)顧客は混乱し、いつしか商材を“解雇”するでしょう。

 

 

マネージャーは都合よくデータをつくろうとする

経営が順調に進み、一層の飛躍を目指すというフェーズにおいて能動的なデータを集めてしまうことは先述しました。これがイノベーションを破綻させることも紹介しました。能動的なデータには「無意識に改ざんされる」というデメリットがあることを認識しておきましょう。これが3つ目の罠です。

心理学ではよく「思い込み」の恐ろしさが説かれます。認知心理学の方面で特に頻繁に使われている言葉です。人間には無意識にストレスを回避しようとする傾向があります。たとえ経営に不利益な要素が入っているデータでも、他面にメリットを感じたら採用してしまうことがあるのです。

「数値的なデータは客観的で信憑性がある」といわれます。しかしそのデータを収集したのは人間であることを覚えておきましょう。人間が集めている以上、完全な客観はありえません。顧客の目線になって、ジョブを捉え続けた「受動的データ」のほうがよっぽど客観的なのです。

事業を任されているマネージャーは数値的目標を解いて、プロジェクトメンバーの行動を定めようとします。しかしそこには”マネージャーに都合がいいデータ”があるのです。結果的に顧客のニーズから離れてしまう可能性が考えられます。

 

 

数値にとらわれていてはイノベーションは完成しない

イノベーティブなビジネスモデルでスタートを切ったのに、いつの間にか市場で競合と争うようになってしまうケースはよくあります。これはイノベーションの罠に引っかかっている可能性が考えられるでしょう。数値的なデータは経営を続けるうちに必ず出現します。決して惑わされないでください。常に初心を持って、顧客のジョブに注目し続けることで長期間にわたって安定した経営が果たされます。

ジョブ理論を用いたフレームワークにジョブマップがあります。ジョブマップを用いることで、顧客のニーズから目を離さずに経営を進められる可能性が高まるでしょう。BizMakeでは以下のリンクからWeb場で簡単にジョブマップを作成できますので、ぜひお気軽にご利用ください。

 

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