
意外にも知られていない? かつてスターバックスがとっていたサブスク戦略とは?
たびたび飲食店のビジネスモデルの指標となるカフェチェーンといえば「スターバックスコーヒー」です。今回はスタバが展開するサブスクリプションサービスについてご紹介します。
2015年にローンチし、2017年9月のオンラインストア閉鎖とともにストップした希少豆の定期購入サービス「Starbucks Reserve® Roastery Subscription」をビジネスモデルキャンバスを用いて俯瞰的に分析するほか、スターバックスカードなどの取り組みなどに焦点を当てながら解説しますので、飲食店経営者の方でサブスクリプションにご興味のある方は、ぜひヒントになさってください。
目次
従業員の満足が、顧客の満足に直結している
サブスクリプションモデルはそもそも「モノ重視型」から「コト重視型」にビジネスのトレンドが移ろうにしたがって隆盛したビジネスモデルです。だから「顧客のニーズ」をイチバンに考えることは欠かせません。ただ単に定期購読ができる商材をつくるのではなく、ニーズを把握したうえで欲求を満たすためにサブスクリプションは存在します。
スターバックスはもとより顧客ファーストを重視しながら経営しています。例えば顧客に特別な経験をもたらすために独特な社員教育を進めているのは有名な話です。
スターバックスでは従業員自身が「スタバで働いている」ということを誇りに思えるような教育をしています。基本的に接客マニュアルがなく、自主性に任せてホスピタリティを磨いているのです。会社の制度に縛られることなく動けるので社員満足度が高く保たれています。テイクアウトのカップに添えられる簡単なメッセージやイラストは、社員が楽しんで働いている証拠でしょう。
スタバは従業員満足度をゴールにしているわけではありません。従業員の幸福の先に顧客満足度の向上があると考えています。従業員が意欲的に働いてくれると、素敵な笑顔になるし声も大きくなります。これら基本的なことはもちろん、顧客に対して些細な気配りまでできるようになるのです。
顧客は従業員からもたらされる特別な経験を通してロイヤルカスタマーへの階段をのぼっていきます。それがスタバ全体のブランディングにつながっているのは言うまでもありません。今では世界的に「ワンランク上のホスピタリティと本物のコーヒーを提供するカフェチェーン」として認知されています。
サブスクリプションと同等の価値をもたらす仕組み
スターバックスカードを持っている方は日本にもたくさんいらっしゃることでしょう。文字通りスターバックスで使えるプリペイド・ギフトカードです。発行した国によって差がありますが、ポイントやランクによって豊富なメリットがあります。
例えばアメリカ国内でスターバックスカードを使うと、シロップの追加やドリップコーヒーのおかわりが無料になります。また割引制度もあるのです。そのうえ日本と同様に購入するたび「ボーナススター」というポイントがたまっていき、一定数が貯まるとコーヒーが無料で手に入ります。
特にカフェは同じ飲食店でもレストランやバーと違って、人によっては毎日のように通う場所です。ファンになってもらうことで、他のカフェチェーンではなく定期的にスタバを訪れるようになります。そう考えるとスターバックスカードはサブスクリプションモデルではないにしろ、ほぼ同等の価値をもたらすサービスです。スタバと顧客の両方にメリットがある、理想的なビジネスモデルでしょう。
ちなみに知人へのプレゼントの際も同じです。プレゼントされた側もポイントが付与されます。次々と新規顧客が生まれては、スターバックスカードのロイヤリティを体験するのです。見込み客が次から次に生まれては、カスタマージャーニーをたどり「カフェならスタバ」というイメージがつくようになります。
「Starbucks Reserve® Roastery Subscription」とは
スターバックスではホスピタリティはもちろん、豆の質にもこだわることで他店との差別化を図っています。そこで2014年から「リサーブ・ロースタリー&テイスティング・ルーム」という上質な豆だけを提供する焙煎施設 兼 小売り店舗をオープンし始めました。高級志向のニーズを満たすうえにブランド力を高めることにもつながっている仕掛けです。
2015年にはリサーブ・ロースタリー&テイスティング・ルームで焙煎されたハイクラスの豆をサブスクリプションで販売する「Starbucks Reserve® Roastery Subscription」をスタートしました。月額24ドルを支払えば焙煎後3~5日以内に希少価値が高い高級豆が家庭用に小分けされて届きます。サブスクリプションモデルによって、市場調査や顧客データの収集、競合との差別化、安定した収益などのメリットが企業側に発生します。
高級豆に限定しているのは顧客のニーズを踏まえたポイントでしょう。一般的なレベルでは最寄りのスーパーなどでも買えてしまいます。「コーヒーのスペシャリストであるスターバックスが厳選した豆」という価値に顧客は反応するのです。ここでもブランディングが生きています。
シアトルでオープンしたリサーブ・ロースタリー&テイスティング・ルームの1店舗目は”スタバ史上最大の成功”といわれるほどの好評を博したそうです。サブスクリプションモデルのローンチの背景には「高いお金を払ってでも美味しいコーヒーを飲みたいと感じている層がいる」と把握できたことがあるのでしょう。
ただし、オンラインストアの閉鎖とともに「Starbucks Reserve® Roastery Subscription」は2017年9月からサービスを休止しております。理由は明確にされておりませんが、実店舗へのトラフィックを増やしたかったのではないかと思われます。サブスクリプションサービス自体が失敗したわけではなく、優れたモデルであることは間違いありません。
ビジネスモデルキャンバスで解説
では高級豆を毎月届けていたStarbucks Reserve® Roastery Subscriptionのサブスクリプション戦略を、ビジネスモデルキャンバスで俯瞰的に解説します。「ターゲットは誰で」「提供価値は何か」などを9つの項目から観察してみましょう。
1. 顧客セグメント
高級志向でありコーヒー好きの方になります。また普段からスタバを利用しスターバックスカードを持っているユーザーもターゲットに入るでしょう。
2. 提供価値
普通では手に入らない希少な高級豆が手に入ることが価値でしょう。ファンとしてはスタバが厳選してローストしていることも価値になり得ます。また豆の産地などをスタバからの発信で把握できることも顧客にとっては嬉しいポイントです。サブスクリプションなので、初期費用が安くいちいち購入する手間がないことも価値になります。
3. チャネル/販路
スタバが発表するニュースリリースなどで反応する方がいるでしょう。SNSも同様です。また各店舗の案内で存在を知る方もいると思います。
4. 顧客との関係
店舗では手に入らない希少なコーヒー豆を継続的に提供することで関係を築いています。「Starbucks Reserve® Roastery」というハイクラスなブランドを設けることによって、顧客が他のユーザーに比べて優越感を実感することもできるでしょう。
5. 収益の流れ
月額の契約料が主な収益です。またスタバが販売するタンブラーやミルなどの二次的な収益も考えられます。
6. 主要な資源
スターバックスグループ全体の人材や資金は重要なリソースです。また焙煎所やシステム、契約しているコーヒー農家も資源になります。
7. 主要な活動
コーヒー豆の仕入れと焙煎、配送はもちろん、顧客の管理や新たな製品のリリースなどの運営活動が入ります。
8. 主要パートナー
コーヒー豆の仕入れ農家や配送会社などが主なパートナーです。
9. コスト構造
システムの管理や新製品の開発などの運営費がかかります。配送や仕入れにももちろんコストを割かなければいけません。そのために人件費もかかるでしょう。
「顧客ファースト」だからこそのサブスクリプションを
人材教育やサブスクリプションも含めて、スタバはあくまでコーヒーを通して顧客ファーストの戦略を貫いています。繰り返しになりますがサブスクリプションモデルでは顧客のニーズを何よりも重要視することが大切です。そのうえで定期購入できるような仕組みを構築して、ユーザーも会社も利益を感じられるサービスを展開しましょう。
「野郎ラーメン」や「Alpha Beta Coffee Club」など、メインの商材をサブスクモデルで販売している飲食店は日本でも出現しています。今後はさらに増えるでしょう。スターバックスのようにサブ商材をサブスクリプション化したり、定期購入ではないにしろ継続的に顧客から使ってもらえるサービスを構築するのも一つの手です。
今回はスターバックスが展開していたサブスクリプションサービスを、ビジネスモデルキャンバスでご説明しました。BizMakeではこの他にもリーンキャンバスやジョブマップなどさまざまなフレームワークを無料でご利用いただけます。自社のビジネスをサブスクリプションに切り替えることをお考えの経営者や事業責任者、起業家の方などは、ぜひご利用ください。
