
月額4万で全国が”地元”になる。ADDressが仕掛ける「これからの家のカタチ」
サブスクリプション型のビジネスモデルにおいて、重要なのが「所有ではなく体験を重視すること」です。顧客はひげ剃りが欲しいのではなく、綺麗な顔を保ちたい。またギターが欲しいのではなく、演奏をしたいのです。顧客の体験を重視することは、すなわち本質的なニーズを満たすことにつながります。
そんななか「家に住まう」という行為は、どのように変わるのでしょうか。そこに1つの答えを導き出そうとしているのが「Coliving」という考え方です。今回は2019年4月にサービス開始予定のColivingサービス・ADDressのビジネスモデルをご紹介します。
目次
そもそも「Coliving」とは、どのような状況を指す?
Cowokingが「共同オフィス」と訳されるように、Colivingは「共同生活」となります。つまり「1つの家で複数の人間が過ごすことを表す言葉」です……と書くと、多くの方がシェアハウスを想起するかもしれません。
しかし違います。シェアハウスが定住的な共同生活だとしたら、Colivingは流動的です。居住者は1つの拠点に1週間から1カ月のスパンで滞在し、その後はまた違う拠点へと引っ越します。
海外ではすでにWeworkの子会社である「Welive」をはじめ、さまざまなサービスがColivingを提供しています。しかし日本ではまだまだ馴染みがないのが実情です。
そこに一石を投じるのが、2019年の4月にスタートするADDressです。全国各地に空き家や別荘をリノベーションした物件(4月に11箇所からスタート)を構えた、多拠点住宅シェアリングサービスで、3月13日現在、空き家や別荘などを所有する物件オーナーと住人を集めています。
ADDressのサービス内容とは
ではADDressのサービスの内容をご紹介しましょう。
ADDresssはサブスクリプションサービスであり、住人は高熱費や共益費込みの月額4万円で各地の拠点を利用できます。法人向けやONEDAYのプランも今後は実装する予定だそうです。
拠点となる物件は、ADDressが全国各地の空き家や別荘のオーナーから借ります。Wi-Fi環境を含めて物件をリノベーションし、家具家電やアメニティを設置。住人はどのような物件でも快適な生活ができるのです。また家賃はもちろんオーナーに還元することになっています。拠点を管理するスタッフとして「家守」と呼ばれる役職があり、Colivingスペースでのトラブルの相談窓口として活躍するそうです。
なお、ADDressを運営する株式会社アドレスの代表取締役は、株式会社ガイアックスの社員 兼 シェアリングエコノミー協会の事務局長 兼 内閣官房シェアリングエコノミー伝道師である佐別当隆志氏が務めます。株式会社mazelのCEOとしては未来型のシェアハウス・Miraieを立ち上げるなど、シェアリングエコノミーに精通した人物です。
主要株主には前総務省大臣補佐官の太田直樹氏やメルペイの取締役CPO・松本龍祐氏、アドバイザーには株式会社CAMPFIREの代表取締役・家入一真氏など、さまざまな背景を持つビッグネームが脇を固めています。
ADDressのビジネスモデルで注目したい3つのポイント
ADDressはライフスタイルの変化を見越したビジネスモデルを打ち出しています。どのようなトレンドを汲んでいるのか、3つのポイントに分けてご紹介しましょう。
1.顧客の体験を重要視したサブスクリプション
冒頭でご紹介した通り、サブスクリプション型のサービスでは顧客の「所有」ではなく「体験」に価値が置かれます。ADDressは「家を買う」ではなく「気に入った場所で生活する」という価値に重きを置いたサービスです。サブスク、またはシェアリングサービスとして非常に優れています。
2.「空き家問題」に着目
現在、空き家問題が進んでいます。1978年には全体の7.8%である268戸だった空き家が、2018年には17.0%の1,083戸にまで増加し、2033年には30.4%である2,166戸にまで増える見込みです。日本では”新築信仰”といわれ、次々に家を建てる文化があります。その結果として空き家が増えているのでしょう。「野放しにされた住まい」という膨大なリソースを取り込むことで、企業としてはコストカットになりますし、地域への貢献にもつながっています。
3.ITインフラ化による都心の空洞化を予想
今や働くうえで、場所にこだわる企業はかなり少なくなりました。ライフワークバランスからライフワークインテグレーションへと潮流が変化し、フルリモートでも十分に仕事ができます。打ち合わせはスカイプでいいし、仕事の成果はクラウドですぐに確認できるでしょう。もはや仕事を求めて東京に進出する価値は薄れており、これから多くの人口が行き着く先は、むしろ地方です。今や若い方でも多拠点で仕事をしながら生活したいと考えており、ADDressは大きな役割を果たすに違いありません。
ADDressのビジネスをビジネスモデルキャンバスで解説
では、ADDressのサブスクリプション・シェアリングサービスをビジネスモデルキャンバスで解説しましょう。「顧客セグメント」や「提供価値」「チャネル」「コスト」「収益」などを9つの項目から俯瞰して分析できる非常に便利なツールです。
1.顧客セグメント
メインの顧客は、定住に興味がない方です。さまざまな場所に足を向けて、人や場所から刺激を受けたいと考えている方も含まれます。また頻繁に旅行をする方やフルリモートで仕事をしているノマドワーカーも数に含まれるでしょう。
2.提供価値
月額4万円で居住地以外のいろんな場所に足を運びやすくなることが挙がります。その結果、人や場所などの体験を得られることがより本質的な価値です。各地に”家族”ができることになります。また各拠点にはWi-Fiや家具・家電、アメニティなどが完備されており、快適な生活を送れますし、何か問題があっても「家守」に連絡をすれば改善されるのもバリューです。
3.チャネル/販路
各メディアによるプレスリリースが始まっています。また開業の資金をクラウドファンディングプラットフォーム・Makuakeで集めており、そこからの流入も期待できるでしょう。体験したユーザーがSNSで発信する期待もありますし、今後は積極的に広告を打つ可能性もあります。
4.顧客との関係
サブスクリプションサービスなので、初期費用の負担が少なくいつでも止められます。サービスを利用するハードルを下げられるのがメリットです。また各地の拠点で、ユーザー同士がつながる場を設けていることで関係を構築しています。さらに快適なアメニティや家具・家電を用意することで、顧客に良質な体験をもたらします。
5.収益の流れ
ユーザーからの月額4万円の利用料金が主な収益です。また今後、人気が出れば各地方自治体からオファーを受けるようになる可能性もあります。
6.主要な資源
オーナーから借りている空き家・別荘や「家守」を含めたスタッフ、クラウドファンディングで集めた資金などが主なリソースのほか、サイトそのものもリソースに含まれますし、また登録ユーザーのビッグデータも含まれるでしょう。
7.主要な活動
サイトの運営や顧客データの管理、空き家や別荘の整理、リノベーション、家具家電やアメニティの補充、次の拠点の候補地決めなどが主要な活動でしょう。ユーザーのビッグデータ収集と分析も含まれます。
8.主要パートナー
空き家を預けてくれるオーナーは大きなパートナーです。またアメニティを提供する松山油脂や、ベッドを提供するKoala Sleep社も数に含まれます。その他、株主やアドバイザーの面々も大切なパートナーでしょう。
9.コスト構造
サイトの運営費やリノベーションの費用、オーナーに払う賃料、室内設備の仕入費用と修繕費用、「家守」を含めた人材費などがかかります。
「買う時代」から「使う時代」への変化
ものを購入することは、人の生活として当たり前になっています。しかしその先には「利用したい」という本質的なニーズがあるのは確かであり「利用するために買う」というフローを見落としてはいけません。
ADDressは「新しい人や土地を体感したい」というニーズに焦点を絞っています。そのために新しく家を買う必要はなく、すでに大量に存在する空き家を使えばいい。1つの事業によってオーナーにもユーザーにもメリットがあるビジネスモデルであり、大いに評判を呼ぶことが予想されます。
先述しましたが、これからは法人向けのプランも構築していく予定だそうです。ADDressを利用して企業が拠点を増やしていくことも大いに予想されます。
今回はADDressのビジネスモデルをビジネスモデルキャンバスを用いて解説しました。
9つの項目を埋めることで、自社や他社のビジネスモデルを俯瞰的に分析できる優れたツールです。BizMakeでは、どなたでも気軽に作成できますので、ぜひご利用ください。
