
ビジネスモデルキャンバスで分析するWeChatのビジネスモデル
Messengerをはじめ、LINEやWhatsApp、カカオトーク、Skypeなど、世界にはさまざまなメッセンジャーアプリがあります。なかでも勢いがあるのが中国の企業・テンセントがローンチしたWeChatでしょう。
現在、WhatsAppについで世界第2位のユーザー数を誇っているWeChatが躍進できた理由をビジネスモデルキャンバスの9つの項目から説明します。
目次
多角的なマネタイズ
WeChatのユーザー数が向上した背景には「あらゆる機能の搭載」という要因があります。WeChatの主力の機能はもちろんメッセンジャーアプリです。チャット感覚であらゆる人たちとつながれて、無料通話もできます。「シェイク」といってスマートフォンを振るだけで友達交換ができますし、周りにいる人を探すことも可能です。
またアプリのプラットフォーム上でモバイルゲームができたり、最大8秒のショートムービーを撮ってシェアできます。ここまではLINEなどの一般的なメッセンジャーアプリとなんら変わりありません。WeChatに特別な提供価値をもたらしたのは「ネットバンキング」の導入でした。
ユーザーはアプリ内に自分の口座情報を入力します。するとWeChatのプラットフォームを通して預貯金や送金などができるのです。それだけではなく映画館や美容室、レストランの予約やゲーム内のポイントの購入、ネットショッピングの支払いなどをワンストップでできます。また、WeChatは中国のタクシー予約アプリ「Didi Dache」に投資をすることで、アプリ内にタクシーの配車サービスまで導入しました。
想像してください。FacebookやInstagram、Skype、Amazon、Uber、Paypalなどの主要な機能が1つのアプリに集約されているのです。顧客の利便性を圧倒的に高めた、偉大なアプリケーションでしょう。
WeChatを使ったある女性の1日
WeChatの優れた性能を紹介するために、実例を挙げてみましょう。
ある女性は友人と2人でランチをする予定です。しかし待ち合わせ時間になっても友人が現れません。そこで「ルックアラウンド」の機能を使うと、すぐそばで迷っている友人の居場所が分かり、無事に出会えました。あらかじめWeChatのプラットフォーム上で予約をしていたレストランに到着。美しく盛り付けられた料理を写真にとってWeChatのブログにアップします。また友人とのショートムービーをタイムラインにアップしました。するとそれを見た別の友人から「オススメのカフェがある」とのメッセージが。早速、WeChatで予約します。現在地から少し遠いので、近くを走るハイアーをアプリで探して乗車。車内では流行しているWeChatのゲームに興じます。タクシーの支払いも、もちろんWeChatのプラットフォーム上で完結です。カフェは噂通りのおしゃれな雰囲気! 紹介してくれた友人に、無料通話で感謝の言葉を伝えました。
彼女の1日は、WeChatだけで完遂されたのです。多機能搭載型のビジネスモデルによって、あらゆるアプリを開かなくてはいけない顧客の面倒をカットすることに成功した結果、WeChatは多くのユーザー数を獲得しました。
WeChatのビジネスモデルキャンバスを徹底解析
ではビジネスモデルキャンバスの9つの項目から、WeChatのビジネスモデルを紐解いていきましょう。
1. 顧客セグメント(CS)
中国人のユーザーと海外ユーザーに分かれます。ネットバンキングのシステムはまだ中国国内限定サービスのため、顧客セグメントを国内外で区別する方がわかりやすいのです。
2. 提供価値(VP)
「社会的に必要なアプリのニーズを全て網羅していること」が真っ先に挙がるでしょう。細かく書くと「短時間でメッセージを送れること」や「友人の居場所がすぐにわかる」「ネット決済サービス」などが挙がります。
3. チャネル/販路(CH)
主に「App Store」や「Google Play」などのアプリマーケットです。またその他ウェブサイトやソーシャルメディアのチャネルもあります。
4. 顧客との関係(CR)
「コミュニケーションを取り合う」、「共創する」といった要素が並びます。顧客の使い心地をフィードバックしてもらい、一緒にサービスの質を高めていくのが狙いなようです。
5. 収益の流れ(RS)
モバイルゲームやeコマース、ネットバンキングの手数料、ビッグデータの売買などが主な収益源です。
6. 主要な資源(KR)
傘下の会社や、800万にも及ぶ公式アカウント、QRコードのスキャン機能などがリソースに入ります。
7. 主要な活動(KA)
プロダクトの開発やリリース、オペレーション、カスタマーサポート、マーケティングなどの活動がメインのアクティビティです。
8. 主要パートナー(KP)
運営会社であるテンセントを始め、AndroidやiPhone、Windows、BlackBerryなどはビッグパートナーでしょう。また決済システムなどにあたり大手銀行や行政とも共同で事業を進めます。
9. コスト構造(CS)
ソフトウェア開発やマーケティング費用、人件費、プラットフォームのメンテナンス費用、コンプライアンス関連の費用などのコストが掛かります。
今後、WeChatどうやって躍進していくのか
このように、とても利便性が高い1つのプラットフォームを構築したことで世界第2位のメッセンジャーアプリとなったWeChat。その企業価値は最低でも600億ドルとまでいわれています。世界第1位のWhatsAppが190億ドルでFacebookにバイアウトしましたので、約3倍の価値があるというわけです。
今後は各メッセンジャーアプリの争いがさらに激化するでしょう。人工知能を使いながら、より利便性が高い機能を導入しながらアプリケーションの質を高めていくことが予想されます。しかし自分勝手な機能ばかり増やしても顧客は使ってくれません。必ず顧客のニーズに合致した機能を考えなければいけないのです。WeChatの顧客ニーズに合致したサービスはその事実を体現しています。
顧客のニーズをしっかり把握するために「ジョブマップ」というフレームワークを利用してみましょう。「ジョブ理論」に基づいて自社の提供価値と顧客のニーズとを比較できますのでオススメです。
